サステナブル ガストロノミー ツーリズム

「大阪泉州における食文化の旅-SDGsなアプローチを探る」オンラインセミナー

 食文化観光をテーマに、公益財団法人大阪観光局主催、ANAあきんど株式会社・株式会社時事通信社共催によるオンラインセミナーを2022年2月18日に開催しました。

 これまで当たり前のこととして見過ごしがちであった大阪ならではのSDGsに通じる食文化や精神性「始末の心」に着目し、2025年大阪・関西万博に向けて「食のまち・大阪」が目指す新しい地域のあり方を探るセミナーで、泉州地域の事例をもとに、食×観光×SDGsという新たなアプローチとなりました。

Session1これからの観光になぜSDGsが必要か

国連世界観光機関によりますと、観光産業は世界全体のGDP の約1割を占め、世界の雇用者の10人に1人が従事する一大産業となっています。持続可能性の議論が様々なところで進んでおり、またSDGsの17の目標及び169のターゲットの多くに観光産業が関わってくるのも当然の事と思われます。SDGsが観光ビジネス、とりわけ誘客にどのように影響するかこちらのセッションで取り上げてまいります。

(一般社団法人日本食文化観光推進機構理事 田中様)

田中 操(たなか みさお)
PRプランナー/空間プロデューサー(一級建築士)(一社)日本食文化観光推進機構 理事
1960年生まれ。メーカー勤務を経て、’97年(株)読売広告社に入社。事業、コンテンツ開発部門を約15年間率い、自治体の観光PR、イベント、産品マーケティング等の業務に従事。
‘20年同社を退職して現在に至る。

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世界の旅行トレンドとSDGsについて

7−8年ほど前から地球温暖化問題をきっかけとする意識の高まりやオーバーツーリズムへの反省があり、環境やサステナビリティへの配慮という切り口が出てきていたのですが、その新しい切り口がSDGsに集約され、最近ではコロナの影響もあって旅のメインテーマの一つに急浮上しました。その典型例が、NYタイムズの『今年行きたい52カ所』に表れています。今年の52カ所はSDGsという観点で選ばれているところばかりで、 「2022年のリストは、世界中で旅行者が問題解決に寄与できる場所を選択」と説明されています。

(時事通信社 大嶋様)

大嶋 聖一(時事通信社社長室専任室長<国際企画担当>)
経済担当特派員として、ロンドンとニューヨークで通算8年間勤務。
海外のSDGsやメディア動向に詳しい。​
自治体向けインバウンド観光支援事業で、メディアコーディネーターや英語記事の編集・監督も担当。

コロナ後の旅行のグローバルトレンドを紹介

トレンド1:ステイケーションから短距離旅行、そして長距離旅行へ? コロナウイルスの相次ぐ波の中で、欧米では国内・短距離旅行への関心が高まり、旅行メディアの記事にもこうした傾向が表れました。 旅行規制の緩和が進むにつれ長期の旅行が増加し、長期間の巣ごもりの反動で「ドリームトラベル(夢の旅行)」への欲求が高まる、との見通しも出ています。これは日本にとってチャンスではないでしょうか?   トレンド2:人の行かないところへ、そして長期滞在? これから「オフ・ザ・ビートン・パス(人の行かないところへ)」と長期滞在の2トレンドが合わさるかもしれません。人々は、観光化されたところより、「オーセンティック」で「リアル」な場所を体験したいという考えを持ち、これまで観光客があまり行かなかった地域のチャンスが増える可能性があります。   トレンド3:旅行業界のサステナビリティ、ダイバーシティ推進への期待が高まる ダイバーシティは重要です。日本はどうすれば、もっと多様な旅行者をおもてなしできるでしょうか。好例は、大阪のLGBTQ旅行者向けのウェブサイト「Visit Gay Oska」で、日本で最初の本格的なLGBTQ旅行者向け英語サイトです。宣伝資料の工夫、宗教・倫理感のニーズに配慮した料理の提供、メッセージ発出などの努力も有効です。

(トラベルライター ロブゴス様)

ロブ・ゴス(トラベルライター)
日本を拠点とする英国人トラベルライター。
日本の観光情報をナショナルジオグラフィック・トラベル誌などに寄稿。
2020年の世界旅行メディア連盟(GTMA)の最優秀トラベルライター賞の最終候補。
これまでに「Japanese Inns and Hot Springs」などの自著7冊。

Session2「食」を通じた地域おこしについて

SDGs的側面から見たご当地グルメとその発掘の視点

地元では当たり前に存在し長年愛されてきた日常食が、地域外の人々を惹きつける可能性があることは、なんとなくご理解いただけると思います。ここでのポイントは『地元で長年愛されている』ということです。長く根付いている、地元の人が日常的に食べているということが観光客の旅心をそそるのだということだと思うのです。そうしたご当地グルメ、実はその誕生にはサステナビリティの要素があるものが意外に多いことに気づきました。

(愛Bリーグ本部専務理事 俵様)

俵 慎一(たわら しんいち)
一般社団法人愛Bリーグ本部 専務理事
東北大学電子工学科卒。リクルートで旅行情報誌事業の自治体企画等担当後、独立。
地域ならではの食に精通し、60地域以上の食のまちおこしに携わる。
’09年「B-1グランプリ」主催団体愛Bリーグ事務局長。’11年より現職

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 ご当地グルメのブームの火付け役ともなった静岡県の『富士宮やきそば』。もともと製糸業の女工さんたちが好んで食べていたとのことですが、特徴は、コシの強い麺とイワシの削り粉、そしてなんといっても「肉かす」という豚の背脂からラードを絞った後のカリッとした芳ばしいもの。本来廃棄されていたものをもったいないから使ったことで、その料理がおいしくなったため、今に至るまで地元に定着している、という物語はサステナビリティという視点で見ると、ある意味最先端の食文化とも言えます。
 関西だと兵庫県明石市の明石焼。地元では玉子焼と呼ばれていますが、もとは明石の名物であった明石玉というサンゴの模造品を作る際に多く使われたのが卵の白身で、黄身が大量に余ったのを活用して作ったのが始まりなのだとか。小麦粉にじん粉という粉と卵黄を混ぜ合わせてサンゴ玉を作る銅板で焼いたというのがルーツといわれています。余った食材としての卵の黄身を活用し、美味しいものを作った事実があり、それが多くの人の舌を魅了してご当地グルメとして現在まで根付いているのも、サスティナブルな物語ですね。

(愛Bリーグ本部専務理事 俵様)

Session3大阪泉州地域の食文化の魅力を探る

泉州の食文化観光におけるサスティナブルポイント

一つ目は、泉州が『大消費地に近い食材のバックヤード』であるというポイントです。天下の台所である大阪中心部を近いところで支えている食材の宝庫、そのひとつが泉州だという点です。ある生産者さんによると、近いことで消費者や調理人の声がダイレクトに伝わって来るそうで、食材の品質向上や生産量にも敏感になり、無駄を抑え、結果フードロスにも繋がっていると言えます。一方、観光視点では、泉州に来れば、そのように鍛え抜かれた地の食材が手に入り、味わえるという魅力に繋がると言えます

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二つ目は『サスティナブル志向の生産者が既にいる』ということです。流通を抜本的に変えることでエコでストレスフリーな肥育を実践している、なにわ黒牛の松田さんを始め、江戸時代から続く泉州の伝統的農業を守っておられる射手矢農園の射手矢代表、いずみふれあい農の里でまさにSDGsに沿った活動をしている浅井さんなど、熱心に取り組む生産者の姿は素敵で応援したくなります。 三つ目は『魚(な)の庭を守るための水産資源再生』です。アナゴは泉州エリアの名物ですが、年々漁獲量が減少していることから関空対岸の岡田浦漁業協同組合では近畿大学の協力のもと、アナゴの養殖に力を入れています。豊かな海を保全し、地の魚を食べることは輸入に比べて使用エネルギーも少なく、SDGs目標14の『海の豊かさを守る』にフィットしています。また環境保全ための地元漁師による植林は、目標15『陸の豊かさも守る』にあたると言えます。観光目線では泉州各地の魚市場に行けば新鮮な地魚が手に入り、地元の海鮮料理も楽しめ、旅行者にとって価値ある取り組みだと言えます。 四つ目は『日本の食文化を支えてきた堺の存在』です。600年の歴史を誇る堺打刃物は食文化と最も密接に繋がっています。府内唯一の刀匠でもある明治5年創業の水野鍛錬所 五代目の水野淳(みずのじゅん)さんによると、板場割烹の職人のほぼ100%が堺の包丁を使っているだろうとのこと。また、包丁が無形文化遺産である和食を支えるもっとも大切な道具である点から、まさにSDGs目標11の4にある『文化遺産の保全』にも繋がってくると思います。

(一般社団法人日本食文化観光推進機構理事 田中様)

泉州の旅はバックステージツアーと位置付けると面白い

 観光は従来、お伊勢参りのように、皆が知っている、皆が行っている有名なところを自分も見てみたい、という動機が強かったのではないかと思いますが、2000年ごろから人の行かないところで『発見』や『自分だけの体験』のある旅をしたい、という傾向が一般旅行者の間でも強まってきました。 バックステージもそのテーマの一つです。分かりやすい例で言えば、フロリダのディズニーワールドのメイキャップや衣装作りの現場や地下にあるサポート用トンネルを見るデイツアーは大変人気があります。乗り物に乗って短時間で舞台裏をのぞいて回るライドもあります。大阪のUSJはもともと、ロサンゼルスのハリウッドのスタジオのバックステージツアーで、ジョーズの特撮セットなどが目玉でした。今では米国のユニバーサルスタジオのバックステージツアーがあるくらいです。バックステージのバックステージ、というわけです。

(時事通信社 大嶋様)

SDGsな視点も含めた視察先の感想

水野鍛錬所は「オーセンティック」という条件にぴったりで、大きく素材に手を加えることなく、そのまま観光資源として使えると思います。手を加えないということは日本人と同じレベルの体験ができるという意味では大変良質の体験ができると思います。刀鍛冶が作った包丁を持ち帰ることは外国人にとって大変価値を感じることです。 いずみふれあい農の里は体験型の観光資源であるとともに、人であふれた大阪、というイメージとは別の大阪の隠れた顔を発見できます。SDGsの視点で、観光資源をきれいに説明しているのも素晴らしいですね。 また浪花酒造の酒蔵見学のようなバックステージツアーはトラベルライターとして普通と違った視点を常に求めているので、日本文化を裏側から見る視点は大変興味深いと思います。

(トラベルライター ロブゴス様)

泉州のご当地メニューのポテンシャル

 外国人観光客に対しては、SDGsというテーマはとても大事になってくるでしょうし、日本でも持続可能性は観光においても重要なテーマになっていくと思います。 「食文化の旅」と「SDGs」で考えると、SDGsを目的に旅をする、となるとちょっと難しくなりそうですが、美味しいものを食べに行って、そこにSDGsの要素があり、それが少し社会的に意義のある事だと思えると、ちょっと嬉しいと思うんです。そもそも旅をして地方でお金を使ってくれること自体、地域活性化の応援になるし、地方の持続可能性を高めることになるわけですが、さらに持続可能な取り組みを応援となれば、旅することが社会に役立つことになる、というわけです。 今回、大阪湾を代表する穴子が水揚げされる、岡田浦漁協にお話を聞きました。一昔前は養殖の評価は必ずしも高いものではなかったかもしれませんが、昨今では餌や飼育環境を厳しく管理することでブランド魚が市場に出回るようになり、消費者からも高く評価されるようになってきました。 もともとアナゴの名産地で、その資源保護を同じ場所で、しかも近大が関わるというお話自体大変興味がある話題ですが、何よりアナゴの産地だからこその食べ方にやはり心惹かれます。 地元で食べられている「ねぎ穴天」「ねぎ穴天丼」などは関東では聞いたことがありません。これを知らない人たちなら、是非産地で揚げたてを食べたいと考えるお客さんはたくさんいると思います。ほかにも穴子の刺身も食べると聞きました。アナゴは足が速いこともあり、産地ならではの食べ方で、コロナ禍が明けたら是非食べに行きたいと思っています。

(愛Bリーグ本部専務理事 俵様)

最後に

 本日のセミナーを通して、その素地が泉州には在るように思いました。関空を起点に大阪京都、高野山、また南紀熊野へ向かう観光客が、当たり前に泉州も旅程に組み入れてくれる日を夢見て、本日のセミナーがその一助になれば幸いです。
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